産業カウンセリング

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安藤一重

ごあいさつ

カウンセラーとして、自身に問いかける機会に…

社団法人日本産業カウンセラー協会
会長 安藤一重

当協会は2010年11月、23,000人を超える会員とともに創立50周年の大きな節目を迎えました。この間、わが国の産業経済社会は技術革新の進展で大きな変貌を遂げ、とりわけ、経済のグローバル化の中で産業構造に著しい変化をもたらし、その結果、労働態様の変化、働く人々の意識の多様化がすすみ、労働移動が顕著となりました。

加えて少子・高齢化社会の到来は就業構造に大きく影響し、派遣労働者やパート、アルバイト、外国人労働者など、多様な働き方を余儀なくされる職場環境を形成しました。

この現象は非正規労働者の増大につながり、正規労働者に比べ、労働条件などに格段の差が見られる格差社会の出現となり、働く人びとにさまざまな暗い影を落としています。

このような変遷を辿ってきた社会の中で、当協会と産業カウンセラーの50年の歩みを振り返ってみる時、私たち産業カウンセラーは現場の実践者として、いつの時代も働く人びとの置かれている状況に絶えず関心を払い、社会の変化の中で遭遇する悩みや苦しみを真摯に受け止め、取り組んできたと誇りに思っています。

そしていよいよ、協会創立50年後の新しい幕開けとなる第41回全国大会が上信越支部のご尽力により新潟で開催されることになりました。大会のメインテーマは「人と組織、心でつなごう、支えよう~産業カウンセリング、つぎの半世紀へ~」としました。

今回の大会にはこのテーマに相応しい基調講演をお二人の先生にお願いいたしました。
その一人は、NHKの番組「プロフェッショナル」でその活動が放映された、働く人びとの支援に当たられている弁護士・村田浩治先生です。雇用をめぐる問題が大きな課題となっている今日、その問題点を法的な立場から解明いただきます。先生は賃金未払い、解雇事件、過労死など働く人の基本的権利を守る実践活動、特に弱者といわれる労働者の支援に日夜尽力されている人権派の弁護士です。

先生の活動を通して、専門家集団と自負している私たち産業カウンセラーの「専門性とは何か」「働く人を支援する上での基本的な姿勢」について考えてみようではありませんか。

もう一人の講師は長野県松本市にある神宮寺(臨済宗)住職の高橋卓志さんです。高橋先生はNPO法人長野NPOセンター代表などの活動を通してチェルノブイリの子供たちの支援を鎌田実さんなどと行っておられます。また、「自分らしさを保ったまま生きていくことは大病に罹患した人にとって重要なテーマ」であるとし、生老病死を支える「コミュニティケア」のホスピスを生まれ故郷の温泉街に作るなど、ユニークな活動を展開されています。

私たち産業カウンセラーは、お二人の講演から、働く人々が人間的に豊かに生きること・人間的成長を支援する専門性とは何か、自身に問いかける機会にしていただければと考えます。

また、翌日は13の分科会を計画しています。日頃の活動の成果を発表し、経験を学び、交流し、これからの活動の糧にしていただくことができればと願っています。

日本海側ではじめて開催する全国大会です。心豊かなひとときを共有し、「働く人の明日を支える」ために、全国の賛助会員、会員の皆様を自然溢れる新潟でお待ちしています。


村田浩治

基調講演1

労働者のモラールと企業のモラル
~労働裁判にみる労働者の意欲の源泉~

弁護士 村田浩治

1 、増加する非正規労働の背景

非正規労働者の割合は、年々増加している。統計上、明らかに増加したのは1999年以降ではないか。
ひとつには派遣労働可能な業務が、ポジティブリストからネガティブリストへと逆転するという明らかな労働政策の質的転換の影響がある。

2 、偽装請負、派遣切りからみた労働の実態

日本の労働者派遣法は、確かに不十分である。しかし、現行派遣法は、全く労働者保護の内容を含んでいないわけではない。建前上は、直接の雇用が原則であり、安定的な雇用が望ましいという前提で、派遣就労受入期間の制限や、直接雇用の申込み義務の規定をおいている。これらの規定は、一定期間(1年ないし3年)を過ぎた恒常的労働については、「終身雇用」労働契約へと導くことを指向している。
  しかし、2000年前後からの好景気の下で増加した非正規労働者は格差の問題とリーマンショック以後の大量の派遣切りを生み出した。就労の実態は、講演にゆずるが派遣切りや偽装請負労働者の労働相談や労働裁判を通じて感じるのは、非正規や正規を問わず、不安をかかえるなかで、行き場を失い、かつてのものづくりを支えた勤勉で意欲あふれる労働者の存在を押しつぶす職場環境の悪化である。

3 、企業のモラルと労働者のモラール

問題は、政策の転換という単純な政治の問題だけでなく、企業意識の変化にある。バブル崩壊を経験して右肩上がりの経済事情の下で終身雇用と年功序列賃金の労務管理ではなく、成果主義と競争主義の労務管理政策を多くの企業がとった。そのような企業の労務管理に対する意識が大きく転換した結果が労働政策にも反映しているかもしれない。
  しかし、企業の労働者の就労環境を保護すべしとのモラルが崩れ、企業が社会的責任を意識せず違法派遣や請負のあげく、理不尽な解雇や雇い止めを追求すれば、さらなる労働条件の悪化とモラール(士気)の低下を招く。労働条件の悪化や理不尽な解雇に抗して訴訟を起こす労働者の意識は、実に誇り高い。労働者の誇りが生かされることは重要だ。どのような労働環境の確保が求められるのか真剣に考える必要があるように思う。


高橋卓志

基調講演2

Not Doing But Being
  ~四苦と支え~

神宮寺住職 高橋卓志

世界は「苦」に満ちている。あなた自身も「苦」の中にある。生・老・病・死という、いのちのプロセスには、必ず「苦」がまとわりつく。このことを四苦といい、生・老・病と進むうちに「苦」は次第にボリュームを増し、死の周辺で、「苦」は極限となる。逃れられるものなら、「苦」から逃れたい。しかし、自力での脱出や緩和はなかなか困難だ。そんなとき、あなたを支え、寄り添う誰か(何か)が必要になる。

アメリカの哲学者M.メイヤロフは、支えの本質を「そのひと(もの)がそのひと(もの)であるために援助すること」と言っている。たとえば、花瓶の花が、花としてあるためには、水が必要であり、その水をあげる(援助する)ことで、美しい花を咲かす。同じように私が私であるために、誰かが支え、寄り添ってくれている、ということだ。

一方、あなたが他者に支えられるだけでなく、他者を支え、寄り添うこともある。メイヤロフはこうも言う「一人の人格を支えるとは、最も深い意味で、その人が成長すること、自己実現することをたすけることである」と。

ケルトの音楽に「You Raise Me Up」というタイトルの曲がある。それは「あなたによって私は、私以上の私になれた」という意味である。私以上の私になるには、あなた(他者)の支えが不可欠なのだ。この曲はメイヤロフの言葉と一致する。

しかし、支えや寄り添いは、常に自分以外のものとの関連となる。だから、相関の程度をはかることは、なかなか難しい。

死の臨床では、「Not Doing But Being」(何もしなくていい、ただそこにいるだけでいい)という言葉が光を放つ。死を迎えようとしている人々に対して、私たちは、何かをしなければ、という使命感や切迫感を持ってしまいがちだ。しかし、こんな時こそ、相手の声や思いを、相手の心の叫びを静かに聴き、まるごと受け止める意識を持たねばならない。それが、「苦」の只中に居る人と、あなたとの相関関係の作り方だと思う。


その中から「聴く」ということを学んだ。